終了点について
※終了点(Sport Climbing Anchors)の設置については、以下のことを留意しました。
1 強度は2kN以上。
2 ガルバニックコロージョン(異種金属接触腐食)を極力防ぐ。
3 不慣れな初心者のために結び替えを避ける。
4 費用対効果を考える。
1と2について
上記1の「強度は2kN(約204kg)以上」並びに2の「ガルバニックコロージョン」については、中根穂高氏の意見を参考にしています(『Rock&Snow』2019, No.83, p.110及び2020, No.89, p.104参照)。中根穂高氏は終了点について、次のように述べています。
「衝撃の事実をお伝えしましょう。みなさんが強度を気にしている終了点は、ロワーダウンやトップロープなどに使うときにそれほど大きな力がかからないということです。名著『生と死の分岐点』の中で、ピット・シューベルト氏は、ロワーダウン支点に2kN以上の力がかかることはないと言っています」
「材質の異なる金属を組み合わせて使ってはいけません(中略)ガルバニックコロージョンという、電位差から微弱電流が流れ続ける現象により、あっという間に腐食してしまいます」「ビレイポイントとして一時的に利用するなら、アルミ合金のカラビナを使うのが一般的ですが、ロワーダウン用の終了点として、長期にわたり皆で使用するなら、別種の金属であるアルミ合金のカラビナの直掛け残置は、やめたほうがよさそうです」
「終了点にクライミング用でない、一般工業製品のシャックルや、リングキャッチを使うことについて考えてみましょう(中略)私は使うことはありませんが、これらの使われた終了点を見つけると「間接的な殺人ともいえる暴挙」などと、鬼の首を取ったように言う人がいます(中略)ステンレスシャックルに強度300kgと書いてあっても、それは実用強度で、破断強度は、およそその5倍の15kNくらいあるものです(中略)同種の金属を組み合わせた支点ならば、耐久性は相当高いことは事実のようです」(『ROCK & SNOW 089』山と渓谷社、2020年、104頁~105頁)
その結果、下部エリアには、メインにステンレスの径12mmで強度430kgのシャックル(片方固定)、バックアップに径10mmのステンレスチェーンと径8mmで強度200kgのステンレスマイロン、ボルトはヒルティの径10mmで長さ68mmのM10ステンレスウエッジアンカー(スタッドアンカー)ボルトを用いることにしました。2kN以上の荷重に耐え、全てステンレスなのでガルバニックコロージョンの可能性が低くなります。経年劣化などによる摩耗を発見した場合もホームセンターなどで入手が簡単で、取り替えもスパナ一本で済みます。
なお、上部エリアでは、マイロンを扱う余裕がない箇所には、代わりに強度20kN以上のクライミング用のカラビナを使用しています。
ベテランの方の中には「クライミング用の製品のみを使い、工業製品は強度があっても使わない」という方もいらっしゃるようですが、JFAで推奨しているヒルティのステンレスウエッジアンカー(スタッドアンカー、通称グージョンタイプとも言われますがこれはPETZL社の商品名 Coeur Goujon Bolt からきています)ボルトは、立派な工業製品です。
3について
上記3の結び替えについてですが、そのルートが結び替えが必要だということが前もってわかっていれば、安全環付きカラビナと余分のクイックドローなどを持参して登ることが定番のようです。もちろん終了点の状況がわからないルートは全てそのような準備でとりつくことが望ましいのでしょうが、まだまだ少数派のようです。
そして、せっかく登る前にクライマーとビレイヤーでダブルチェック(パートナーチェック)した結び目を、高い終了点でクライマーのみの確認のもとで結び直す必要が生じます。現在JFAその他で推奨されているのは、終了点でセルフビレイをとり、緩めたロープを二つ折りにしてリングなどに通して環付きビナなどに結んでハーネスに接続し、その後でさらに末端も解いてリングを通して再びハーネスに結び直して、2箇所でロープと繋がった状態を作る方法です。しかし、リングの穴が小さかったり、カラビナ付き終了点のカラビナが失われてチェーンやハンガーのみといったシングルでしか通らない場合は、セルフビレイをとって完全にロープを解いてから結び直す、というケースもありえます。
いずれにしても、体勢は不安定、指先も含めて体も心も疲労あるいは興奮しているかもしれません。登りでテンションがかかっている場合などロープはきつく締まってなかなか解けません。このような状況の中で、ロープは最終的にハーネスのタイインループなどの安全な場所に直接あるいはカラビナを介して接続されなければならず、うっかりギアラックなどに接続したら大変です。誤ってロープを落としてしまう危険もあります。こうした一連の作業はベテランでも面倒さを感じる人が多いようですが、不慣れな初心者の場合は危険性が増すように思われます。2015年12月20日の湯河原・幕岩での結び換え時の事故は多くのクライマーに周知されているところです。クライマーだけではなく、ビレイヤーも、ビレイの解除と継続のタイミングを測りにくいことがあります。特にビレイヤーが初心者であったり声が通りにくい場合は危険性が増大するようです。
宗宮誠祐氏は「終了点での結びかえ不要論」を唱えています。Blog(http://jiyujinclimbing.blog2.fc2.com/blog-entry-695.html)で、クライミンング中にメインロープをほどくことは可能な限り回避することを大原則と考えて、「結び替え」という高リスクのテクニック?について、以下の理由で不要であると主張しています。一つの意見として参考になるかもしれません。
安環付ビナ1枚のみを使用する結び替え法の問題点
1つ目は、リードする時に、安環付ビナをもってくクライマーいるかなあ、ということでした。ただ、この点は、啓蒙活動によって解決できる、と、思い直しました。
2つ目は、安環付ビナをセットする位置を間違える可能性です。暗かったり、慌てていたり、疲れたりしてたら、間違えて、例えばギアラックにかけちゃうかもなあ、と感じました。
3つ目の疑問は昨日も書きましたが、重要論点なので繰り返します。以下です。終了点到達時にギアラックに安環付ビナ1枚とヌンチャク1本があるなら、 その安環付ビナを終了点にセットし、ロープを通し、残置してロワーダウンするのが一番安全だ。なにしろ、ビレイヤーとクライマーでダブルチェックしたメインロープをほどかなくてもいんだから。にもかかわらず、なぜ、こんなややこしくて、危険なことをするんだろうか?
いろいろ考えてみました。しかし、終了点に自分のギアを残置するのが惜しいってこと以外の理由を思いつきませんでした。
以上の検討により、ぼくは上記の結び替え法の採用を、原則、却下することにしました。そして、安環付ビナ(マイロンの時もありました)を1枚ギアラックにかけておいて、残置ビナがなかったり、ゲートが開かなかった場合は、その安環付ビナを寄付して下降する方法を採用し、周りにも強くすすめて、現在に至っています。
もちろん、終了点での結び替えも含めて「クライミングである」とも言えます。つまり、クライマーであるということは、いかなる状況(終了点のカラビナがないとか)においても、安全に対処できる技術を身につけておかないといけないわけです。私も、クライマーが結び替えの技術に通じていることは必要かつ重要だと思っています。
クライミングは危険な行為であるという認識を持つことは大前提だと思います。ただ、リスクに対応する力と技術を身につけることと並んで、回避可能なリスクは極力減らすことも必要かもしれません。インストラクターや指導者の方々の中には、最初から教える予定の場合は別として、生徒が結び替えの必要なルートに取り付くことに抵抗を抱く方もいるのではないでしょうか。
ルート設定者の一人としては、どのような方が取り付くのか予測できませんので、強度・腐食・使用・経費などに配慮して、できるだけ安全策をとっておきたい、ということです。
ちなみに、FIXE社などのラぺルステーションをスポートルート(スポーツルート)の終了点に推奨している動きもあります。しかし、人によっては以下の理由で敬遠する向きもあります。
1、ロワーダウン時に、ラぺルステーションのOリング一個のみにロープをかけるのが標準的であるが、Oリングが破損した場合のバックアップがない。菊地敏之氏もラぺルステーションなどでの懸垂下降時には「ラペルリング、残置カラビナなどがある場合でも、それが1枚だった場合、壊れないという保証はない」ので、最初に降りる人はクイックドローなどでバックアップをとり、安全であれば最後の人が回収して降りることを推奨している(『Rock&Snow』2021, No.91, p.68参照)。スポートルートの支点にもこの考え方は適用されるだろう。複数の人が同じルートを登る場合は最初の人がバックアップビナをかけるべきだし、一人だけしか登らない場合はそのビナは残置となる。このような状況を考えるなら、ラぺルステーションの終了点にはあらかじめステンレスカラビナをかけておくか、ガルバニックコロージョンよりも安全性を優先して残置ビナをつけておくべきだが、そうでないなら別の終了点を考えるべきである。
2、摩耗を防ぐために「ラぺルステーションのOリングでのトップロープはしないように」と啓蒙されているが、Oリングを用いたロワーダウンでも体重のかかったロープが擦れることによって、トップロープ時ほどではなくても、その何割かの効率で摩耗が起こる。摩耗がひどくなった場合、ラぺルステーションのOリングは交換困難である。結局、残置ビナは必要となる。
3、本来はマルチピッチルートでのビレイや各種活動の懸垂下降の支点として、安全環付きカラビナとともに用いるもので、そもそも「結び替え」を前提としたスポートルートの支点ではない。スポートルートの支点に用いるならば、残置ビナなどの安全対策が必要である。などなど。
ただし、径10mmの製品でBreaking Strengthは25kN以上あるようで、強度は抜群です。マルチピッチのビレイポイントで使う場合など、場合によってはアンカーに6kN以上の衝撃が加わることもあるようなので(落下率1でロープ長3.6m、クライマーの体重80kg、アンカーから延びたロープ長1.5m、落下距離3mのケース)、十分な対応と言えます。スポートルートにおいても、ガルバニックコロージョンや結び替えに留意して適切に使えば、優れた終了点だと思います。以下、FIXE社のカタログを参考までに。
FIXE社 ビレイ・ラぺルステーション ステンレス 型番037
さまざまな状況でのビレイまたは懸垂下降アンカーに最適な解決策。
一端にリングが付いたチェーンは、マルチピッチルートでのビレイシステムとして、またケービング、キャニオニング、困難な下降壁での懸垂下降支点として使用されることを想定しています。常にロックゲートが付いたカラビナを使用して、ユニットの任意の部分をクリップすることができます。リングは壁に対して垂直に配置されているため、ロープの回収が容易です。
FIXE BELAY-RAPPEL STATION STAINLESS -037
The perfect solution for belay or rappel anchor in a wide variety of situations.
The chains with ring at one end have been conceived to be used as a belay system in multi-pitch routes as well as a rappel stance in speleo, canyonning and difficult descend walls. It is possible to clip any part of the unit with a carabiner which should always have a locking gate. The ring is placed perpendicularly to the wall so that it eases the retrieving of the rope.